開業届を書きはじめて最初に手が止まるのが「職業」欄です。決まった職業名の枠に新しい稼ぎ方が収まらず、「何と書けば正しいのか」「書き方で税金が変わるのか」で迷います。このページでは、職業に関係なく共通する2つのこと——職業欄には決まった書き方がないこと、この欄の先にある個人事業税の判定は名称ではなく実態で行われること——を、条文と自治体の原文で整理します。

職業ごとの候補(文筆業か出版業か、配信業は一覧にあるか、古物商と職業欄の関係など)は、それぞれの職業の記事にあります。このページは、その全部が土台にしている共通の仕組みです。

職業欄は「正解の職業名を当てる欄」ではなく「実態を伝える欄」です。ここを押さえると、この先の説明が全部つながります。

職業欄に決まった書き方はない

開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)の様式には「職業」欄と「屋号」欄があります。一方、国税庁が様式に付けている「書き方」を全文確認すると、記載方法の指定があるのは所得の種類・給与等の支払の状況・個人番号まわりなどで、職業欄の書き方についての指定はありません。「正式な職業名リスト」から選ぶ欄ではなく、自由記載です。

迷いにくい分担は次の形です。

  • 職業欄: 実態に合う簡潔で一般的な名称(動画編集、小売業、デザイン業、文筆業など)
  • 事業の概要欄: 様式に「できるだけ具体的に記載します」とあるので、活動の中身はこちらで具体化する

俗称や新しい言葉(「せどり」「AI絵師」「ライバー」など)で書くことが禁止されているわけではありません。ただ、この欄は役所が実態を把握するための欄なので、判定する側が業種を特定しやすい一般的な言葉のほうが実務上は無難です。収入源が複数あっても開業届は1枚で、職業欄には中心になっているものを書き、概要欄でまとめます。

事業の概要欄のほうに書き方の指示がある

職業欄で迷う人が多い一方で、様式が「こう書いてください」と示しているのは職業欄ではなく、その下にある「事業の概要」欄のほうです。欄の見出しに括弧でこう印字されています。

できるだけ具体的に記載します。

職業欄(氏名の右の小さな欄)には、この種の注記がありません。様式に付いている「書き方」の全文を確認しても、説明があるのは届出書の目的・提出期限・所得の種類・給与等の支払の状況・青色申告承認申請書などの期限・個人番号の取扱いで、職業欄と事業の概要欄の記載方法は出てきません。つまり、この2つの欄について公式に示されているのは、概要欄に印字されたこの一文だけということになります。

事業の概要欄に入れると伝わる3点
  1. 1

    何を

    提供しているもの。動画の編集、電子書籍の執筆、仕入れた商品の販売など

  2. 2

    誰に

    相手。個人の視聴者、法人からの受託、不特定の購入者など

  3. 3

    どの経路で

    売上が立つ場所。プラットフォーム名を書いてもよい

様式の「できるだけ具体的に記載します。」に沿った書き方の整理で、国税庁が示している型ではありません。実態に合わせて書いてください。

収入源が複数あっても開業届は1枚なので、職業欄に入りきらないものはこの欄でまとめられます。逆に言えば、職業欄を短い一般名にしても、概要欄が具体的なら実態は伝わります。

様式に「変更」の区分は無い

あとから職業や事業の中身が変わったらどうするか、という疑問がここで出ます。様式の「届出の区分」にある選択肢は開業・廃業・事務所や事業所の新設(増設・移転・廃止)の3つで、「職業や事業内容の変更」という区分はありません。

出し直しが要るかどうかは様式からは読み取れない部分なので、ここは断定しません。気になる場合は所轄の税務署に確認してください。なお、個人事業税の業種判定は次の節のとおり書いた名称ではなく実態で行われるので、届出の文言が実態より古くなっていること自体が税額を決めるわけではありません。

確定申告書にも「職業」欄がある

同じ「職業」でも、確定申告書のほうには公式の指示があります。国税庁の確定申告の手引き(令和7年分)の第一表の説明です。

▶ 職 業 職業を記入します。個人事業者の方は、事業の内容を具体的に記入します(青果小売業、自動車板金塗装業など)。複数の事業を兼業している方は、全ての事業について記入します。

開業届の「書き方」には職業欄の指定が無いのに、申告書の手引きには具体例つきの指示があるという非対称があります。読み取れることは2つです。

  • 求められているのは正式な職業名ではなく「事業の内容が具体的に分かる言葉」(例示の「青果小売業」「自動車板金塗装業」はどちらも業態がそのまま分かる言い方)
  • 兼業は全部書く。開業届が人ごとに1枚でまとめる書類なのに対し、申告書は毎年の実態を書く書類なので、ここが違う

屋号についても同じ並びで「事業に係る屋号や雅号がある場合に記入します」とあり、無ければ空欄のままで構わない書き方になっています。

開業届の職業欄と申告書の職業欄は別の書類の別の欄なので、一字一句そろえる必要はありません。開業後に事業の中身が変わったら、その年の申告書にはそのときの実態を書くことになります。

職業欄が関わるのは個人事業税

職業欄の書き方が「どうでもよくない」理由が、都道府県の税金である個人事業税です。地方税法72条の2第3項にこう定められています。

個人の行う事業に対する事業税は、個人の行う第一種事業、第二種事業及び第三種事業に対し、所得を課税標準として事務所又は事業所所在の道府県において、その個人に課する。

課税の対象は、法律に列挙された業種(法定業種)に当たる事業です。東京都主税局の案内はこうです。

個人の方が営む事業のうち、地方税法等で定められた事業(法定業種)に対してかかる税金です。現在、法定業種は70の業種があり、ほとんどの事業が該当します。

「ほとんどの事業が該当します」と書かれているのがポイントで、該当しない事業もあるということでもあります。当サイトで扱う職業に関わる業種を、条文(72条の2第8項〜10項)と東京都の表から拾うとこうなります。

区分(税率)一覧に載っている業種(当サイトの職業に関わるもの)
第1種事業(5%)物品販売業・製造業・請負業・広告業・印刷業・出版業・写真業・運送業・電気通信事業(放送事業を含む)・演劇興行業
第2種事業(4%)畜産業・水産業・薪炭製造業(当サイトの職業には関係しない)
第3種事業(5%)デザイン業・コンサルタント業・諸芸師匠業
一覧に見当たらない文筆業・著述業・音楽家・配信業・ソフトウェア開発業

「見当たらない」は、列挙に項目として無いという意味で、課税されないことを保証するものではありません。条文の各区分には「前各号に掲げる事業に類する事業で政令で定めるもの」という項目があり、当てはめは実態で決まります。

判定は名称ではなく実態

ここがこのページでいちばん伝えたい部分です。業種の判定は、職業欄に書いた名称ではなく、事業の実態で行われます。

「文筆業と書けば個人事業税がかからない」でも「デザイン業と書いたから課税される」でもありません。職業欄は実態を伝える材料のひとつで、名称を選ぶことで税額を選べる欄ではありません。

同じ「文章で稼ぐ」「絵で稼ぐ」でも、受注してデザインを納品する実態なら第3種のデザイン業に、刊行して販売する実態なら第1種の出版業に、それぞれ整理される余地があります。逆に、列挙に名前が無い働き方でも、実態が列挙された業種に類すると判定されることはありえます。

どの業種に当たるかを個人の副業の形ごとに一般化して示した公的資料は、当サイトでは確認できませんでした。 書いていないことを推測で埋めるべきところではないので、各職業の記事では「一覧のある側と無い側のどちらに寄るか」までで止めています。判定は住んでいる都道府県の税事務所が行うので、事業の所得が次の控除の水準に近づいてきた段階で確認してください。職業欄で守ることは、実態と違うことを書かないの一点です。

事業主控除290万円がある

法定業種に当たる場合でも、地方税法72条の49の14に事業主控除があります。

事業を行う個人については、当該個人の事業の所得の計算上二百九十万円を控除する。

前項の場合において、事業を行つた期間が一年に満たないときは、同項に規定する控除額は、二百九十万円に当該年において事業を行つた月数を乗じて得た額を十二で除して算定した金額とする。

年間を通して事業を行い、事業の所得が290万円以下なら、この控除によって個人事業税はかからない計算になります。開業した年など営業期間が1年未満のときは月割で、東京都主税局の表では6ヶ月なら1,450,000円です。始めたばかりの段階でまず意識するのは所得税と住民税で、個人事業税は事業の所得がこの水準に近づいてからの論点になります。

個人事業税では青色申告特別控除が加算される

所得税と個人事業税は別の税なので、片方の控除がもう片方に効くわけではありません。見落としやすいのが青色申告特別控除です。東京都主税局が示す税額の計算式はこうです。

(事業所得又は(及び)不動産所得 + 所得税の事業専従者給与(控除)額 - 個人の事業税の事業専従者給与(控除)額 + 青色申告特別控除額 - 各種控除額)× 税率 = 税額

青色申告特別控除額が「引く」ではなく「足す」側にあります。 同じページに理由が明記されています。

個人の事業税には青色申告特別控除の適用はありませんので、所得金額に加算します。

所得税で55万円・65万円を控除していても、個人事業税の計算ではその分が戻されて課税対象になる、ということです。控除で課税所得を下げる話は会計ソフトの選び方・共通編で扱っていますが、それは所得税の話で、個人事業税には持ち込めません。

税務署とは別に、都道府県への事業開始等申告書がある

税務署への開業届とは別に、都道府県税事務所へ提出する書類があります。東京都主税局のQ&Aから引きます。

都内において、個人で事業を開始した場合は、事業の開始の日から15日以内に「事業開始(廃止)等申告書」を所管の都税事務所等に提出してください。

東京都は開始から15日以内で、税務署への開業届(その年分の確定申告期限まで)より早い書類です。様式や期限は都道府県ごとに定められているので、お住まいの都道府県税事務所のサイトで確認してください。開業届・青色申告承認申請書と合わせた3つの書類の期限の並びは、開業届の共通編にあります。

自分の職業が一覧に無いときの調べ方

当サイトが扱う職業は12個で、世の中の働き方はそれより多くあります。自分の職業が下の一覧に無い場合は、同じ手順を自分でたどれば同じところまで行けます。

業種を自分で確かめる4段階
  1. 1

    条文の列挙を見る

    地方税法72条の2 第8〜10項に、第1種・第2種・第3種の業種が列挙されています。自分の仕事の名前がそこにあるかを見る

  2. 2

    総務省の通知で定義を見る

    業種ごとに「具体的には…」という定義があります。**名前が似ていても定義で外れることがある**ので、ここまで見ます

  3. 3

    都道府県の表で税率を見る

    東京都主税局なら70業種の表。第何種かと税率が分かります

  4. 4

    都道府県税事務所に聞く

    **判定するのはここ**です。①〜③で決まらなければ、事業の所得が290万円に近づいた段階で確認します

①〜③で決まらないことは珍しくありません。そのときは④が答えです。

②で見る通知は「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」で、業種の中身まで書いてあります。名前だけでは分からないことが書かれているので、2つ例を引きます。

まずデザイン業(第3種・5%)です。

デザイン業とは、継続して、対価の取得を目的として、デザインの考案及び図上における設計又は表現を行う事業をいうものであり、ここでいうデザインには芸術活動により創作される作品は含まれないので、十分留意する必要があること。

「芸術活動により創作される作品は含まれない」と明記されています。絵を描いて売る働き方が、名前の印象だけでデザイン業に入るわけではない、ということです。

次に請負業(第1種・5%)です。

請負業とは、その事業が通常請負契約によって行われるものをいうのであるから、大工、左官、とび職、植木職、ブリキ職等でたまたま請負契約によることがあっても通常単に自己の労力を提供しこれに対する対価として賃金を受け取っているにすぎない者の行う事業については事業税を課さないものとすること。

自分の労力を提供して対価を受け取っているにすぎない場合には課さないという記載があります。例示は建設の職種ですが、考え方としてここに書かれています。

[!IMPORTANT] 新しい働き方は、この通知に名指しされていません。 事業税の章を通しで確認したところ、「配信」「動画」「インターネット」「ライブ」「タレント」「芸能」のどの語も1度も出てきませんでした(2026-09-30 に確認)。答えが一言で決まらないのは調べ方の問題ではなく、定義の側に無いからです。だからこそ判定は実態で行われ、最後は④になります。

法定業種に当たらないときは申告書に番号10を書く

「一覧に無い」で終わらせずに済む手順が、確定申告の手引きに用意されています。手引きは事業税の欄についてこう案内しています。

事業税には、課税されるものと非課税のものがあります。また、事業の種類により税率等が異なります。次の①又は②に該当する場合は、該当する番号とその所得金額(所得税における青色申告特別控除前の金額)を記入します。

②として挙げられている非課税所得の最後が、ここで効きます。

10.地方税法第 72 条の 2 に定める事業に該当しないものから生ずる所得

つまり、法定業種に当たらない所得がある場合は、申告書の「住民税・事業税に関する事項」欄にその番号と金額を書くという扱いが公式に示されています。記入する金額は青色申告特別控除を引く前である点に注意してください。

手引きには、この欄の説明のすぐ横に地方税法72条の2に定められている事業の一覧も印刷されています。当サイトが扱う職業に関係しそうなものを挙げると、物品販売業・請負業・印刷業・出版業・写真業・広告業・代理業・仲立業・デザイン業・コンサルタント業・諸芸師匠業などが並んでいます。条文や総務省の通知に当たらなくても、確定申告の時期に手元に来る資料で一覧を確認できるということです。

[!IMPORTANT] 自分の所得が「該当しないもの」に当たるかどうかを、当サイトでは判断しません。手引き自身も「事業税についてお分かりにならない点がございましたら、各県税事務所等にお尋ねください」としています。番号を書く前に県税事務所に確認してください。

事業税の申告書を別に出す必要はない

同じ手順の冒頭に、手続きの全体像が書かれています。

所得税等の確定申告書を提出した方は、その確定申告書等が地方公共団体へデータで送信されますので、改めて住民税や事業税の申告書を提出する必要はありません。

逆に、確定申告の義務が無い人は別です。

所得税等の確定申告書の提出義務のない方は、原則として市区町村へ住民税の申告書を、都道府県へ事業税の申告書を提出する必要があります。

副業で「20万円以下だから確定申告はしない」と判断した場合に、住民税の申告が残るのと同じ構造が、事業税にもあるということです。

職業ごとの候補はそれぞれの記事へ

上の共通の仕組みに、職業ごとの候補と固有の論点が乗ります。

まとめ

  • 職業欄に決まった書き方はない(国税庁の「書き方」に指定が無い)。実態が伝わる一般的な言葉で書き、具体は「事業の概要」欄へ。収入源が複数でも開業届は1枚
  • 様式で書き方が印字されているのは「事業の概要」欄だけ(「できるだけ具体的に記載します。」)。何を・誰に・どの経路で、が伝わる形で書く
  • 様式の「届出の区分」は開業・廃業・事務所等の新設等の3つで、職業や事業内容の「変更」という区分は無い
  • 職業欄が関わるのは個人事業税(都道府県税)。課税対象は法定業種(72条の2)で、一覧に無い業種もあるが、類する事業を政令で定める項目もある
  • 判定は名称ではなく実態。職業欄で税額は選べない。個別の当てはめは都道府県税事務所へ
  • 一覧に自分の職業が無いときは条文 → 総務省の通知の定義 → 都道府県の表 → 都道府県税事務所の順にたどる。通知にはデザイン業に「芸術活動により創作される作品は含まれない」、請負業に「自己の労力を提供し…賃金を受け取っているにすぎない者」には課さないといった、名前だけでは分からない線引きが書かれている
  • 事業主控除290万円(72条の49の14)があり、事業の所得がそれ以下ならかからない計算。1年未満は月割
  • 青色申告特別控除は個人事業税では加算される(適用が無いため所得に足し戻す)
  • 確定申告書の職業欄には公式の指示がある(「事業の内容を具体的に記入」「兼業は全部書く」)。開業届の欄とは別物
  • 法定業種に当たらない所得は、申告書の「住民税・事業税に関する事項」欄に番号10と金額(青色申告特別控除前)を書く扱いが手引きにある
  • 確定申告書を出せば事業税の申告書を別に出す必要はない。ただし確定申告の義務が無い人は別途必要
  • 税務署とは別に都道府県への事業開始等申告書がある(東京都は15日以内)